2016年7月11日月曜日

PGSが成功しないと思う理由


PGSというクラウドファンディングプロジェクトをご存じでしょうか。ご存じなければ正直ご存じないままでも大丈夫だと思いますが、またしてもUMPCネタです。

Portable Console for PC games略してPGS、気になった方はリンク先の説明を読めばいいんですが、ざっくり言うとスライド式2画面UMPCです。HTC ShiftとLibretto W100のハイブリッドみたいな感じ?この表現で伝わる人も色々とアレですが。

さてこのPGS、夢のようなスペックを持つ一方、実現可能性について非常に不安な点があります。そして個人的には「プロジェクトは成功しない」と思っています。

そう思う理由をだらーっと書いていきたいと思います。


判断材料にしないこと


基本的に、今回この記事では「技術的に可能か」に重点を置きたいと思っています。なので、このプロジェクトの節々にある「詐欺っぽさ」を成否判断材料にするつもりはありません(例えばやけにイケてるCGやビデオ、泥臭さの無い開発風景など)。

理由としてはそういう胡散臭さがありながら製品化した例も(クラウドファンディング詳しくないですが)あると思うのと、例えばDragonfly Futurefönの動画のような明確な詐欺の証拠、といったものは無いからです。

個人的な印象でも、彼ら自身は悪意無くマジで作るつもりでやってるんじゃないかな、とは思っています。


スペック


まずはその夢のようなスペックです。PGSにはPGS HardcoreとPGS Liteの2エディションがありますが、基本的には主力機種であるPGS Hardcore中心で考えます。Liteについては後述。

5.7インチWQHDディスプレイ・x7-Z8750・8GBメモリ・SSD128GB(eMMCと区別しているので恐らくM.2/SATA)・LTE・Win/Androidデュアルブート・・・まさにUMPCオタクの妄想を具現化したようなスペックが並んでいます。

筐体も164.1 x 84 x 18(1.8は誤植だと思うので)mm・320gで、スライド式であること・Androidも使えることも加味するとUMPCを通り越して厚くて重いファブレットというレベルの製品です。

そして特徴的なのがサブディスプレイです。キーボードの代わりにこれを搭載することで、ソフトウェアキーボード兼タッチパッド兼ディスプレイとしています。

実際こんな製品が店頭で売っていたら、10万円でも即買いしていたことでしょう。物理キーボードの方が良かったんじゃないの?という好みの問題もありますが、基本的に非の打ち所のない製品です。

ですが、ここまでスペックが充実していると、どうしても実際作れるの?という疑問が浮かんでしまうのは言わば当然のところで。


筐体が薄すぎる


まず思ったのがいくらなんでも筐体がコンパクトすぎるということです。同じSoCを採用するGPD WINの22mmより更に薄いです。しかもGPD WINにはないスライド+チルト機構(しかもメインディスプレイ側に機構を収納)を実装する必要があります。

そしてサブディスプレイについても、物理キーボードに代えて載せているわけだからあまり変わらないという考え方もできますが、なにせ4.5インチとそれなりのサイズのディスプレイが載るわけなので、本体下側だけでPCのフルセットが揃うことになります

言い方を変えれば、メインディスプレイを除いた部分(18mmより更に薄い部分)でVAIO UGOLE1くらいのパーツ・機能を実装しなければなりません。ちなみにVAIO Uは26mm、GOLE1が20mmです。後者は同じ時代の同じAtom機です。

個人的には20mm台後半〜30mm程度の厚さは無いと実現困難だと思います。


Android 6.0


Android 6.0 Marshmallow搭載というのも、そんなに難しくないようですが根拠に乏しく思います。

というのも、x86機、特にCherry Trail機でAndroidを動かすにはIntelによる対応が必須ですが、世に出ているCherry Trail Androidタブレットは全てAndroid 5.0 Lollipop止まりでMarshmallow搭載モデルはありません。Atom終息によりIntelがMarshmallow対応するかもわからない状況でMarshmallow搭載と言えるんでしょうか?

そして、Windowsと違ってAndroidは1画面前提のOSなので、サブディスプレイに対応させるにはそれなりの開発が必要です(Sony Tablet PやN-05Eの例もあるので不可能では無いです)。

ましてWindows版と平行して専用ソフトウェアキーボードを開発しないといけません。Windows版のコードはほぼAndroid版に流用できないですし、ただのアプリと違ってOSのコアに関連するキーボードなどは片手間に作れるものでもないです。

確かにファブレット的スタイルでAndroidも使えれば本当にスマホが要らなくなりそうですが、ついでに載せる程度のリソースでは載せられないものなのでかなり無理のある計画に思えます。


価格


いくらなんでも安すぎます。$260スタートで、台数制限の無い枠でさえ$300です。GPD WINより遥かに高コスト(WQHDディスプレイ・サブディスプレイ・8GBメモリ・SSD等)で、実現するとしても相当の開発費がかかると見込まれるので利益が出るとは思えません。

「出資なんだから開発費が集まればいいわけで、利益を出したいわけじゃない」と言えばその通りですが、集まった資金で開発ができても製品という形で出資者に還元しなければならないため、製造時点で出資者向け製造コストが残っていなかったら頓挫してしまいます。

例えばGPD WINであれば既に製品・売上のある企業なので、出資者向けの製造コスト分さえ出資金で確保できれば、開発費そのものは自前で用意できますが、製品を持たないPGSはそうではありません。

少なくとも、大量の購入希望者が集まったという実績を元に、どこかから(製品を引き替えとしない)出資者を得られないと厳しいと思います。

あるいは、完成後出資者を差し置いて一般販売し、その利益で出資者向けに生産する必要が出てしまうんじゃないでしょうか。


PGS Liteの存在


最も理解しがたい点がここです。廉価版であるPGS Liteの存在が、正直開発の妨げとしか思えません。

根本的な問題が、ハードウェア的な差異が大きすぎることです。ディスプレイサイズ・筐体サイズからして違うため、流用できる部品がほとんどありません。共通化しても良さそうなカメラさえ差別化されています。SoC・サブディスプレイくらいです。

もちろん廉価モデルとして用意する以上スペックに差異があるのは当然ですが、流用できる部品が少なすぎて実質的に丸々一台分の開発コストが発生してしまうため、裾野の拡大以上にデメリットが大きすぎます。

次に問題なのが、PGS Hardcoreに対してPGS Liteの魅力が無さ過ぎることです。これだけ細かく差別化しているにも関わらず、価格差が$30〜$40と十数%しかありません。この程度の差なら普通Hardcoreを選びます。

価格以外PGS Hardcoreに対する優位点は軽さ(75g差)と薄さ(4mm差)くらいです。Androidファブレットとして捉えた場合、この差はかなり大きく、高性能スマホとしてPGSが欲しい人にとってはHardcoreより魅力的な点になり得るのですが、よりによってPGS LiteにはLTEがありません。実現可能性を無視した場合、LTEさえ付いていればPGS Hardcoreに加えてPGS Liteも別途欲しいくらいだったのにスマホとして肝心のところが欠けています。

結果として、現時点でPGS Hardcoreが1,154台に対しPGS Liteは僅か30台の出資しか集めていません。このスペック差と価格差を考えれば当然だと思います。

にも関わらず、PGS Hardcore単体を開発するのと比較してPGS Liteも開発すると2倍近い開発コストがかかってしまうため、完全に無駄だと思います。

幸い?、あまりにも差がありすぎてPGS Liteの出資者数は現状無視できるレベルなので、差額支払いによるPGS Hardcoreへのアップグレードかrefundを選択させて、PGS Liteを廃止するしかないと思います。


ストレッチゴールの無謀さ


「難しいだろう」が「無理だろう」に変わった要因がここです。ストレッチゴールが無謀すぎます。結果的に可能かどうかはともかく、現時点で請け負っていいものではありません。

現実的なストレッチゴールはボタンバックライトとカラーバリエーション、大目に見てWinからの電話発信機能くらいで、その他のゴールは外的要因に左右されすぎるか、設計に与える影響が大きすぎます。
 (バックライトさえパッドしかボタンの無いPGSでは実用性が薄い上に厚さに影響を与えるので無駄だと思いますが)

GPUオーバークロック・ゲーム最適化ツールはIntelのファームウェア・ドライバに手を入れる必要があるため、Intelの協力が確定していない現状表明すべきものではないはずです。そして、終息が決まっている製品のためにIntelがなぜそこまですると思うのでしょうか?

また、防水・ワイヤレス充電に関しても厚さを含む筐体への影響が大きすぎ、現在標榜している基本スペックを満たせる可能性が下がります。特に防水に至っては筐体の設計を根底から変えないと達成できないので、初期スペックならまだしもストレッチゴールで表明するようなものではないはずです。

最も酷いのがカラー電子ペーパー採用のゴールで、これに至っては開発可能か以前に部品調達の目処が立っていない、というか立ちようが無いです。最近確立したレベルの技術を、必要なサイズで必要な数だけ必要な時期に供給される前提とするのは不誠実とさえ思います。

結果的に、出資額が集まる(=達成ゴールが増える)ほどプロジェクトの達成が困難になるという本末転倒の状況になっています。一般的なストレッチゴールは付属品の増加やそれこそカラバリといった、「金の力で解決できる(技術的ハードルのない)」ものだけであるはずです。

また、ストレッチゴールではないですが、$800のチタン版PGS Hardcoreも真剣さを疑う原因の1つです。プラ・アルミでケースを作るのとチタンで作るのは同じ形でもまったく別の製造技術を必要とするため、差額分を回収できる見込みが無い上に開発時間が浪費されてしまいます。

これらの無謀なゴールの設定により、単純に技術的に実現困難になること以上に、このようなゴールを設定するほどに「真剣さがない」「約束を守る気がない」「技術的知見がない」のどれかなるわけで、どれに該当したとしてもプロジェクトの実現可能性を大きく下げています。


成功するには


以上のことを踏まえると、PGSのプロジェクトが成功するためには、
  1. Androidについて妥協し(廃止 or Lollipop化、ソフトウェアキーボード断念)
  2. 製造コストを補填してくれる出資者を見つけ
  3. PGS Liteを廃止し(出資者はrefundか追加出資でのHardcore移行を選択)
  4. ストレッチゴールのほとんどを撤回
した上で根本的に難しい筐体サイズのハードルを越える、ということが必要になると思います。
少なくともキャンペーン終了までの段階でPGS Liteとストレッチゴールについての方針を変えない限り、真剣にやっていないか無謀だと認識する最低限の技術力すら持っていないと思われても仕方がありません。

逆に、これらの問題を解決さえできれば、ハードウェア的に絶対不可能というレベルではないので、延期は避けられないと思いますが最終的に開発に成功し製品化する可能性はあると思っています。


結論


「誠実に取り組んでください」としか言いようがありません。詐欺だと根底が覆ってしまうので詐欺である可能性は除外しますが、だとしても何でもかんでも「できる」と言ってしまうのは技術力の要求される開発プロジェクトとして無責任な態度と言わざるを得ません。コメント欄での逆ギレに近い態度を見てももうちょっと真摯になってくださいという感じです。

コンセプトだけ提示して開発を丸投げするならともかく、技術者集団として自ら開発するつもりなのですから、できないものは「できない」、できるかわからないものは「できたらやる」と、正直に提示した方がよっぽど好感が持てます。(僕がGPD WINを「いけるな」と確信したのも種々のリクエストに対して「これは無理」をハッキリ言っていたからです)

かなりボロクソに近い言い方をするのは、このプロジェクトが結果的にこのまま失敗すれば、今後同種のプロジェクトが出た時の成否に多大な悪影響を及ぼすと思うからです。ゴミみたいな製品なら勝手に失敗してくれという感じですが、コンセプトは素晴らしいだけに、プロジェクトだけでなくこのようなコンセプト・ジャンルの未来ごと潰すような結果だけは見たくないです。

繰り返しになりますが、製品をバカにしているわけではなくて、作ろうとしているものは間違いなく素晴らしいものなのですから、コメント欄でブチ切れるくらい製品化に向けての情熱があるのなら、実現可能性を高めるためのアプローチをしっかり取ってほしいです。

個人的には、現段階で出資できるものではないと思うので出資しませんし、そのためこれらのことを要望として伝えることもできませんが、とりあえず無視はせず出資締切まで見守ってみたいと思っています。

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